懐古的で一般的な

 小夏の姿が扉の向こうに消え、扉が閉まった途端、目貫は心底疲れきった顔で床に寝転がった。
「……疲れた」
「悩める若者の人生相談相手見事でしたね」
 ずっと黙り続けていた癖に終わった途端にからかうように顔を覗き込んで笑っている相手を思い切り睨み付ける。
「なにが見事だ、俺がやりたくもないことをやってるのを楽しんでただけだろうお前は」
「いえいえ、余計な口を挟むのも野暮なことでしたし、そもそも僕は人の苦しみは人のように理解できませんから」
 笑ったままの顔に吐き捨てるように目貫は言う。
「そりゃあそうだろう、お前にとっての人の苦しみは娯楽でしかないからな」
 心底毒づいても相手の笑みは深く歪になるだけだった。
「もちろん否定しませんよ。とりあえず後始末はしましょうか」
「そうだな⋯⋯で、あれはどのくらい成ってるんだ」
 身体を起こした目貫が言ったのは置いていかせた毛糸の人形だった。
「中の下というところですね、先程先生も言われてた通り根本にある感情は逃避とそれを否定するものですから僕がなにかするほどのものじゃありません」
「なら俺が燃やすだけでも片付くか……こっちはな」
 そう言ってから目貫は相手を見る。
「お前の狙いは、あの娘についてたもののほうだろう?」
 その言葉に相手の笑みは深まりもはやそれはかろうじて人の形を保っているような人ならぬソレだった。
 端正な顔立ちを作り上げてるからこそ、その表情は禍々しさが強まっている。
「なんの力もないですが執念だけは御大層なものでしたね、あの若さでしかも元凶は自分なのに付きまとう性根には感心しますよ」
「そうか、俺にはどうでもいい。死んだものをどうしようがな」
 投げやりな言葉に人ではない人の形をしたものが愉快そうに嗤って尋ねる。
「どうしてもいい、ということですね?」
「まどろっこしいことを言うな……喰いたいのなら喰ってしまえばいいだろ」
 目貫の言葉に相手は嗤う。
「じゃあ少し出てきます。ああ、それとその人形一応保険のために本来の『役目』も果たさせておいたほうがいいですよ」
 そう言った次の瞬間にはその姿は消えて、本当に部屋には目貫だけになった。
「本来の役目、ね」
 そう言うとブツブツとなにか言いながら目貫は自分の髪の毛を抜き取り人形に埋め込んだ。
 そして立ち上がり、持ってきたのは五寸釘と金槌。
 それを人の心臓の位置にあてるとなんの躊躇いもなくその釘を人形に打ち込んだ。
 しばしの間。しかし、部屋にも目貫にも変化らしい変化はない。
「まあ、俺にとっては無意味だからな」
 まるで効果が届かなかったことを不満だろう人形に説明するように目貫は言った。
「俺の身体には心臓がないんでな。いまの持ち主は……さっきのあいつだから諦めろ」
 当然、元からそんな身体だったはずはない。
 もともとはただの人間に過ぎなかった自分がそうなった経緯をぼんやりと思いながら台所のコンロで人形を燃やすために立ち上がった。
 目貫をこうした原因である、今頃嬉々としてかつて幼い子どもだったものを喰らい尽くしているソレのことを考えるでなく考えながら目貫は人形を燃やした。



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