懐古的で一般的な

「ここまで話を聞いている限り、なにもかもを自分のせいだと思っているんじゃないか? それこそ、いじめのことも」
 その言葉に小夏は黙る。
 いじめられる側にも責任がある。などと平然と言う連中は一部にいる。
 目貫からしてみればあまりにもくだらない考えだし、そんなことを言えるのは人生で一度でも他人から悪意を向けられた意識がないか、逆の立場だったものくらいだろう。
 中にはいじめから自力で抜け出したと自負してそんなことを言うのもいるのだろうが、そんなものは死ぬ気でやればなんでもできるとただ自分が死ななかったことだけを根拠に豪語してるのと大差ない。
 世の中にはどうしたって弱い人間というのはいるのだ。他人を憎むだけの力がないほどまでに弱いものが。
「中途半端に嘘をついても意味がないので正直に言うがな、俺にはそこまでなにもかもを自分のせいだと思うっていうのは理解ができん」
 こういうとき、下手な嘘は逆効果だ。だから、思っていることを直に伝える。
「俺も人に憎まれたことはあるし、いじめの類は記憶にないがそれでも不愉快な目にあうような経験はしている。ただ、俺の場合違うのは、そういう連中に対していっさい興味がなかったことだ」
「興味が、ない?」
 奇妙なものを見る目で小夏がこちらを見た。
「興味がない相手に意識を向けるだけ無駄だ、そう割り切る人間なんだよ俺は」
 だから、と目貫は続ける。
「俺には気の利いたことを言えん。そもそもなにかを変えたければ自分が変わらないとどうしようもないものだからな。だからといって劇的に変わるなんてことは望むだけ無意味だ。いまの自分を好きなように見えんから変わりたい気持ちはあるんだろう? なら、まずはそれを素直に認めるところから始めるんだな」
 話しながらなんで自分がという気持ちが否めない。
 講師をしていた頃でもこんな世話を焼いたことはないし、そもそもそんなものをしようと思ったこともない。
 なにせ、さっきも言ったが目貫はこの世のほとんどのものに興味がない。
 なのでそれらがどうなろうと知ったことではないと無視を貫いてきた。
 そんな自分がなんて偽善だと目貫は内心苦い顔をしているのは流石に表には出さない。
「……変われるんですか?」
 そんなこちらの気持ちなど当然気付かず不安げな声で聞く小夏に目貫は億劫そうに髪をかいた。
「俺にはわからんし聞いても意味がないだろう。自分のことは本当のところ自分にしかわからんよ」
「そう、ですよね……」
 俯いた小夏に目貫はため息を付いてから口を開いた。
「例え恐怖から逃げるためだとしても、露骨に胡散臭い噂を頼りにこんな場所と人間のところまで来れたんだろ。なら、自分で思っている以上に度胸はあると俺は思うぞ。とりあえず難しいだろうが自信を少しでも持つところから始めろ」
 職員室でも保健室でもないと思っていたのに結局似たような状態になったなと考えているところに、ぽそりと小夏は呟いた。
「できるかはわかりませんが……あの、頑張ってみます」
「そうか」
「……怖いのもつらいのも、ほんとは嫌いですから」
 元気なく笑ってそう言った小夏は、それでもここに押しかけてきたときより極わずかではあるがなにかが落ちたような顔をしていた。
「話はそんなもんだな、人形はここに置いていけばいい。もう二度とこいつは現れないからそこは安心しろ」
 訪れた用件についてはそう言って安心させておき、小夏もそれを信じたのか「ありがとうございました」と礼儀正しく頭を下げてから出ていった。



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