懐古的で一般的な

「それから、何処にしまってもすぐに、机の上や枕元に」
 そこまで話すだけでも小夏にとっては苦痛だったらしいのは顔色でわかる。
 そして聞き終えて、目貫は小夏は気付かないように息を吐いた。
 ここに来たのは、ある意味正解だ。
 この年齢のこの悩み、そしてそこからの呪い絡みなど下手なところに行けばただのご立派な説教や道徳のようなものを聞かされて終わるだけだろう。
 そもそもの発端である小夏が受けていた『いじめ』についてもそうだが、どれだけまともに取り合うか疑問しかない。
「その弱さが災いを呼んでいる。そんなことで悩んではいけない」
 大方そんなことを言って切り捨てるだろうことが想像できるだけに嫌気が増す。
 だからこそ、目貫には頭が痛かった。
 目貫の言葉ひとつで、これからの人生の一端が変わる可能性が強いものなど、正直手に余るが放り投げるわけにいかない。
 そのことを考えながら、ひとまずは呪いのほうを先に片付けることにした。
「人形は見えるところに現れるだけか? いまも持ってきているが危害を加えられるなどはないんだな?」
「え!? そ、そんなこともあるんですか?」
 怯えた顔がますます怯えてしまい、しまったと思いながら言葉を続ける。
「いや、中になにも入れてないのなら、そういう心配はない。それにたぶん、そいつの役割はいまの話を聞く限り見当はつく」
「どういうことですか?」
 答えを聞くのは怖いだろうが、聞かないのはそれ以上に怖いのだろう。
 怯えたままこちらを見る小夏に、目貫は平坦に聞こえる声で答える。
「自分のしたことを忘れさせない、なにをしたのかを常に考えさせる。それが役目とみていいだろう。実際、事故の日から一瞬でも忘れられたことはないんじゃないか?」
「忘れるわけないです。だって、わたしあんなことして……」
「それだがな、その事故はその人形とは関係ないと思うぞ。そんな力がそれにあるとは思えんからな」
「え?」
 目貫の言葉に小夏は初めて目貫の目を見た。
「作ってる間、なにを考えてた? 相手のことなんて考える余裕はなかったんじゃないか。いまの状況から逃げたい、それしか考えられなかったんじゃないのか?」
 小夏が人形を作った動機は逃避だ。
 恨みも憎しみも抱くこともできず、ただいまから逃げたい一心で作ったのなら、それに込められているのはその感情しかない。
 それだけを込められた人形が他者に危害を加える力などない。
 呪いが向くとすれば作った本人に向けられるのは、だから当然といえば当然なのだ。
 逃げたいと願って作ったものが、逃げるなと追い込む。
 その原因もおおよそ目貫には予想はついた。
「作ったことを後悔しているんだろう?」
 余計な感情を乗せずに聞けば、小夏はただ頷いた。
「けれど、それをなかったことにするわけにはいかない。そう考えているんじゃないか、罪悪感から」
 その言葉に小夏はすぐには答えず「わかりません」と正直に答えた。
「推測に過ぎんが、たぶん人形はその感情が元になったものと考えるのが一番しっくりくる。自分がしたことから目を背けさせない、そんなところだろうな」
 実際、小夏はこれを見る度に作ったことを後悔し続けているだろう。
 そして恐怖しながらも自分を責め続ける。
 自分相手というのは、特に意識下のものは本人がそれを認めどうするかを自分で決めなければいけないから厄介だ。
 ましてこんな、気の弱い子どもになど。
 なので、呪いの仕組みをおおよそで説明し、一番の問題のほうに取り掛かることにした。
 呪いは仕組みを解けばいいだけなのだから簡単だ、それよりも今回の依頼でもっとも難しいことに取り組まなければならないことを考え、目貫は息を吐いた。



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