小夏には高島美咲というクラスメイトがいた。
中学生にしては美人に入るだろう顔立ちで、その自覚が本人にもあるのだろう小夏と違って流行に敏感で身だしなみも校則の範囲でよく見えるよう意識していた。
少々気の強い面はあったが周囲にもクラス担任にも受けが良い、まるで別世界の住人のような存在だった。
その美咲と小夏はしかし友人ではない、むしろその逆だ。
端的にいえば、小夏は美咲からいじめを受けていた。
暴力的なものではなく、グループでというわけでもなくいじめの相手は美咲ひとり、しかしその分それは陰湿で、周囲は誰も小夏がいじめられていることに気付いていなかった。
小夏が強く出られない性格なのもあったが、美咲は巧みに周囲にはまるで親切なクラスメイトが面倒を見ているように見せながら小夏を追い込むのを楽しんでいた。
発端がなんだったのかはよく覚えてない。
いつかの試験で小夏のほうが順位が上だったとき刺すような視線を感じた気がするが、まさかそんなことが原因とは思えない。
かといって金を取られるとか、万引きを強要されるなどということはされていない。
美咲が使ったのはただひとつ、言葉だけだった。
『すごいよねえ、こういう古い本好きなんだあ』
『いま流行ってるコレ知ってる? あ、そっかいまのことって興味ないんだよねえ』
『男子で気になる子とかの話してるんだけど。あ、ごめん、そういうの小夏はぜんっぜん興味ないんだよね』
鈍いものなら気付かない、意図を知らなければ他愛のない会話にしか聞こえないが、その言葉ひとつひとつに小夏にだけは明確に伝わる毒が含まれていた。
なにかあるたびに、美咲はそんな言葉を小夏に投げつけ、まるで親しい友人相手のような笑顔を浮かべるがその目が小夏しか見えないときにはいっさい笑っていないのを知っているのは小夏だけだ。
かといって、こんなもの誰かに相談できるはずもない。
他人から見れば『ただの会話』でしかないことを話しても咎められるのは小夏のほうだ。
両親は共働きで忙しくほとんど家にいない。そんな両親に余計なことを言うのも躊躇われるし、話してみて両親にも「その程度で」と言われたらと思うと話せる相手は誰もいなかった。
気の弱い小夏と美咲の相性は悪い意味で最悪だった。
毎日のように何気ない会話を装いながらじわじわと耳から毒を流し込まれるように、それは確かに小夏の心に蓄積されていた。
その先がどうなるのかは、けれど追い込んでいる美咲自身もなにも考えていないような雰囲気はあった。
ただ習慣となったそれを繰り返しているだけ。その結果どうなっても美咲はその理由を理解することもないだろう。
その状況に限界を感じ始め、けれどどうしたらそれが変わるのかまして終わるのかもわからない小夏はひとり追い込まれていた。
その気持ちを何処かに逃がしたくて、気がつけば作っていたのがこの人形だった。
藁が何処で手に入るのかわかるはずもないので、本で見た形だけを手元にあった毛糸で真似たそれ。
作っているときは必死だった。なにか普通なら決してしないことに逃避しなければ壊れてしまいそうだった。
けれど出来上がったそれを見て感じたのは、自分がこんなものを作ってしまったという怖さだけだった。
気はまったく晴れない。むしろ更に悪化した。
すぐに解してしまえばただの毛糸になって、自分が何をしたのかも忘れられる。
なのに『形』になったそれを壊すことも怖かった。
結局、それをなかったことにするために勉強机の一番下の引き出しに放り込み、忘れてしまおうというのが小夏にできる唯一のことだった。
そんな矢先――美咲が死亡した。
交通事故だと小夏は、登校するとすでに騒然としているクラスで誰からともなく聞いた。
わたしのせいだ。そう感じた。
あんなものを作ったから悪いことが起こったんだ。
そう思うだけで足が震えて崩れ落ちそうだった。
様子があまりにもおかしかったのだろう、事故の件もあったのでクラス担任は無理せず早退することを小夏にすすめ、断る気力もなく帰宅した。
そして部屋に入ると、毛糸で作ったあの人形が、机の上にあった。
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