「とりあえず名前は手に入ったな」
客が帰ったあと、目貫がそう言ったのはひとりごとではない。
先程の話の間ずっとここにおり、しかし最後まで女性が目線すら向けなかった相手は目貫の言葉に口を開いた。
「つまり、本来それを受け取るべき相手に送り返すということですね」
「合ってるかどうかはお前なら見ればわかるだろ。返すのとついでにまた同じことを考えないように軽く言っておけ」
「軽く、ですか。先生も人が悪いなあ」
「お前にだけは言われたくない」
鬱陶しそうに目貫がそう言えば、相手はククと愉しそうに笑った。
かつて向かない講師をしていたとき、助手のように何かと目貫に付いてきていた男がいた。
若いのに呪いなんてものに興味を持つ変わり者で、目貫のフィールドワークにも付き合うほど物好きな男だった。
その男はいまはもういない。
目貫が行方不明になったあのフィールドワークのときに共に消息を絶ち、しかし彼はいまだ発見されていない。
そしてそれ以来、その姿を借りた人ではないものが目貫の傍らにいるようになった。
『先生』とあえて目貫を呼び、わざとらしく助手のように振る舞う、目貫以外にはそれが自ら姿を見せない限りほとんどのものは見ることができないもの。
それとの暮らしにもやり取りにも、目貫はもう慣れてしまっていた。
「呪い返しはお前の得意分野だろ、うなされる程度に留めておけ」
「若い子には甘いですねえ、まあ意味もなく狂わす趣味はないので眠るのが少し怖くなるくらいに留めますよ」
愉快そうに嘲笑うような顔をしながら、それはまた尋ねた。
「ところで先生、あのことは言わなくて良かったんですか?」
「なにがだ」
「さっき来た彼女に付きまとってた、ここへの入り方がわからず周囲をうろついてた男のことですよ」
その言葉にああと言った目貫の声には、なんの感情もなかった。
「呪い以外は俺の知ったことじゃない」
わかりきっていた答えに『助手』はククとまた笑う。
「本当に、人が悪い」
「相手は生きてる人間だ、気付いてから警察なりに言えばいいだろう。自分の手に余ることに関わらない、それだけだ」
「なるほど大変『人間』らしい言葉ですね。じゃあ、僕はこちらを片付けてきますよ、先生?」
そう言ってすぅと姿が消えたのを確かめることもなく、まだ少し残っていた缶コーヒーの中身を目貫は飲み干した。
相談承りマス
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