お迎えにあがりました
食事にしようと棚を開けて中身を見、目貫は心底億劫そうに口を開いた。
「そろそろ買い物に行かなきゃならんな」
「そんな人間なら当たり前にしていることでそこまでになります?」
ぼやいた声に、揶揄する声。
暇なときに起こる無意味な掛け合いだが、目貫は声がしたほうを睨んだ。
三つ揃いのスーツ姿に整った顔、それにまったくそぐわないすべての人間を馬鹿にしたような笑み。
姿も言うこともいつもとなにも変わらないのだが、時には多少なりとも言い返したくなる。
「当たり前だろうと必要だろうと、面倒なことには変わらん」
「なら配達にしたらどうです? 最近はそういうものもあるんでしょう?」
「そばだけ買ってきてくれる奇特なところがあったらな」
目貫の食生活は極端に偏っている。
だいたいは素そばを食べて済ませているので、知人からはいい顔をされていない。
そんな食生活だと倒れるぞと、月に一度は鍋などに強引に誘われることはあるが、それで自身の意志が変わるなら世話はない。
昔はそれでもまだまともと言えるギリギリの食事をしていたが、いまでは完全にそれを放棄しているのは自分にからかいの声をかけてきたもののせいだった。
理屈はわからないが心臓を握られているからか、生きるために最低限の力は与えてくれるらしい。
目貫が生きていないとこの世界に留まれないらしいので、余計なことをするなと言うだけ無駄なのはわかっている。
もちろん、基本は普通の人間なので怪我もすれば不慮の事故にあえば死ぬのは普通の人間と変わらない。
ただ自らの意思で食を断ち、死ぬようなことは許されていないだけだ。
仮にそれで死にかけることができても、おそらく無理矢理生かされ、本物の傀儡に成り果てる可能性もあるのだから積極的に試す気にはならない。
なのでその内容が問題でも最低限の食事はするのをやめる気はなかった。
だが、食べるものがなければそれもできず、ほとんどそばしか置いてない簡素な棚の中身の残りは少ない。
「忘れんうちに買いに行くか」
目貫にしては世帯じみた言葉を口にした途端、それを台無しにするように声がした。
「残念ながらお客さんが来たみたいですね、買い物は後日にしましょう」
その言葉に、目貫はさっきと別の意味の億劫そうな息を吐いた。