ことの始まり 中編
「あ? 祟り?」
言われた言葉にそれを言った当人のほうを見る。
「知る人ぞ知る言い伝えらしいです、どうですか目貫先生!」
興味ありますよねとこちらの答えを決め付けている顔に呆れながら息を吐いた。
「知る人ぞ知るならなんでお前が知ってるんだ」
「ネットで見つけました」
「……それの何処が知る人ぞ知るなんだ」
「あれ? ほんとですね、はは」
間の抜けた返事をしてその返事にふさわしいような顔で笑う男は、自称自分の助手だった。
そんなものを持つ身分でもないし、ひとりで行動したほうが気楽なのだが若いのに酔狂の極みのようなこの男はこうして頼んでもいない胡散臭い情報を持ち込んだり、フィールドワークに同行することもある。
なのでこれは、不本意ではあるが自分にとってこの大学での日常だった。
「お前、腐っても学生だろ。こんなことしてて他の単位は大丈夫なのか」
「そこはちゃんとしてますよ。じゃないと先生、助手をクビだって言ってますし」
そもそも助手にした覚えはない、というのはまったく聞かないのでそう言っただけなんだが。
だいたい、なにがそんなにこいつの興味をひいているのか理解ができない。
自分が研究している、呪いになど。
過去になにかあった、そういうものを必要としているというのなら多少はわからなくもない。
だが、こいつの場合は見るからに浮ついてるいかにもな今風の学生で、呪いについても純粋に好奇心だけなのだ。
家族との仲も良好らしいと聞いたことがあるので、余計にこんなものに首を突っ込むのは趣味が悪いぞと言ったことはあるがまったく気にしていない。
向いているものが呪いというだけで、世間でよくいる未知のものに興味が湧くありふれた若者、なのだろう、たぶん。
正直なところ、自分には理解が難しい人種ではある。
「その歳で呪いになんぞのめり込むと人生詰むぞ」
「先生、それ思い切りブーメランですよ?」
「俺はライフワークになってるから今更だ」
そう言いながらパソコン嫌いの自分に見せるために持ってきたプリント用紙に軽く目を通す。
目を通した限り、古い村ならないほうが不自然なありふれた伝承の類に読める。
曰く、その村にある山にはなにかがあり、それに出逢うと呪われる。
ざっくり言えば本当にありふれたそんな内容だった。
「なにかってなんだ」
「それがさっぱりで」
「リサーチ不足だな」
そう言うと少しへこんだ顔になったが、それで素直に反省するなら世話はない。
「で。これを選んだ理由はなんだ?」
「え?」
「え、じゃない。ネットの噂に俺が興味ないことは知ってるだろ、それをわざわざ持ってくるときはお前なりの理由がいつもある。今回はなんだ」
そう言うと待ってましたといわんばかりの顔で相手は答えた。
「行ってみたという報告や、実況系がほとんどなかったからです」
「人気がなければそれは普通なんじゃないのか?」
「こういう情報があったら誰かしらは行ってみて投稿すると思うんですけど、それがほとんどないんですよ。見つかった数少ない投稿もなにもなかったというのばかりで、噂が広がるような要素がないんです」
「なにもなけりゃ当たり前だろ」
「でも、それならその噂自体興味を持たれなくなって消えるんじゃないですか? なのに残ってるのが不自然だなと」
ひと通りの話を聞いて、こちらの考えを述べる。
「誰かが熱心に投稿し続けてるってことか?」
「なんのためですか?」
「俺が知るか」
そう切り捨ててはみたが不自然な行動を取っているものがいるのは確かなのだろうとは思う。
ネットに関しては疎いが、なにか理由があってその場所に興味をもたせようというのが目的だろう。
「うーん、例えば村興しにっていうのはどうですか?」
「お前が見てるようなところで宣伝しても意味がないだろ」
「でも、投稿し続けてるってことは来てほしい誰かがいるってことですよね」
「それを局地的な場所でする理由が見えん」
そう、投稿しているものの意図が聞く限りまったく見えてこない。
こうなると気になるのは性分だ。
「しかたない。他の予定もないから行くだけ行ってみるか」
「やった!」
だからどうしてお前が付いてくることを勝手に決めるんだ。
言うだけ無駄なので心の中でだけそう言った。