買ってから、しばらくたった。
わたしにはいまだにアレを美しいと思う気にはなれなかった。
特徴があるといえば青い目くらいでそれも人を惑わすと言われるようなものでもなく、顔立ちがことさら整っているようにも、噂に聞く歌声も──
そこでようやくわたしは思い出した。
歌声どころか、わたしはソレの声を聞いたことがなかった。
口を開いたことがないのだ。
もともとひとり暮らしで無音には慣れており、むしろ無駄なお喋りというものが好きではなかったので気にも留めなかったが、そういえばアレが喋ったところを見たことがない。
「声を失った人魚を買ったというわけか?」
そう聞いてみたが、ソレはうんともすんとも言わない。
可愛げがないと少し思ったが、知ったことではないかとあまり深くは考えなかった。
しかし、こんなものを買って、いったいわたしはどうする気なのだろうか。
考えれば、コレに一度も何かを食わせた覚えがない。
だが、コレは生きているし、弱っているようにも見えない。
ならばこのまま餌をやらずとも良いのだろう。多分、そういうことだ。
そんなことを考えて、それきりまた、しばらくソレのことを忘れていた。
人魚を買った男の話
ノンシリーズ