「聞いたよ、人魚を買ったんだって?」
数少ない知人がたまたま訪ねてきたときにそう聞いてきたので、わたしは億劫に「ああ」と答えた。
「酔狂な真似をしたものだね」
「なに、暇だったのさ」
「そんなに暇だというのなら、ボクの仕事を手伝わないか」
「仕事は御免だ。面倒臭い」
そんなことを言いながら家の中へと招き入れ、あれがソレだと桶を指差すと、「ほう」と少し感心したような声をあげた。
「なるほど、人魚だ」
「君の目には、あれはどう映る?」
「どうとは?」
「どうでもいいことだ。人魚は美しいと聞くが、僕にはどうも、それがわからない」
そんな会話をしているこちらに、ソレは青い目を向けていた。
「さて、どうかな。ボクにはそういうのはよくわからなくてね」
「鑑定には煩いと思っていたが」
「ああいうのはボクの専門外だ」
それきりソレには用が済み、別の部屋で昼から酒を飲んでいた。
お互い結構な身分だななどと揶揄しながらも、いつもとさほど変わらない会話をして知人は出て行った。
人魚を買った男の話
ノンシリーズ